【 書評 】『 麺の文化史 』世界中の麺の歴史をひとつの丼へ、いや本へまとめあげた労作 世界中の麺の歴史を知りたいならこの一冊

書評

君が何の麺を食べているか言ってみたまえ。君が何者であるか言いあててみよう。

フランス人の書いたフランス料理エッセイの古典『 美味礼賛 』の名言をいじってみました。

『 麺の文化史 』は『 美味礼賛 』とならぶほどの料理本。いや、麺という一点だけを考えるのであれば、『 麺の文化史 』の右にならぶ本は存在しません。おそらく未来についても全世界の麺について網羅された日本語の本は書かれないと思います。

中華麺やうどん、パスタなどひとつひとつに特化した料理本は存在するかもしれません。

『 麺の文化史 』は、全世界にひろがっている麺の歴史と食べた感想を書いています。著者の石毛直道さんは、全世界を飛びまわる学者です。

ジャングルでうどんを作られたり、砂漠で麺を作られたり行動する学者さんです。

地球上にある麺の歴史を知りたい、そうお考えのかたにピッタリの一冊です。そして、歴史だけでなく麺の作り方や過去の人達が食べていた麺の食べ方も学べます。

『 麺の文化史 』は、中華麺からうどん、蕎麦、米粉麺、パスタまで丸い地球に存在する麺の歴史をおいもとめた労作です。

労作ではあります。しかし、パスタや麺がいつから存在したのか、それはオボロゲにしかわかりません。だいたい、この時代には存在していたでしょう、ぐらいの推測になります。

日本のうどんと蕎麦にもおなじことが言えます。姿や形を記述した文章や絵はありますが、いつから食べられだしたのか、それはしっかりと確実にはわかりません。

蕎麦の発祥の地だけで2~3か所ありますからね。

それだけ麺は古代から愛されてきたと言えるのかもしれません。そして、未来永劫つるつると長い麺は愛されつづけるでしょう。

じっさいに現地に飛び、その場で麺を食べた感想を書いています。麺を食べるのが辛いよ、と愚痴をこぼすほどたっぷりの麺を食べられています。

麺の歴史を知れるだけでなく、麺の味、その場の雰囲気、世界中を旅行したような気持ちも味わえる一冊です。

文化史と書かれています。すこしまえに流行った本があります。『 銃・病原菌・鉄 』では、粉や米が栽培されている場所でないと文化は大きく開かなかった、そのようなことが書かれていました。

まさしく、麺を作るというのは、粉や米を栽培し、さらに調理器具などをそろえられる文化があり、はじめて麺を作れるのです。

このような視点で読むと文化史と呼びたくなります。日本でいえば、麺をのばすめん棒や平な板を作れるようになりはじめて蕎麦やうどんを打てるようになりました。

『 麺の文化史 』で知ったのですが、蕎麦粉の麺は世界中にあります。しかし、ほとんどの蕎麦麺は、押しだして作ります。

幸せの国ブータンにも蕎麦を使ったレシピがあり食された感想を書かれています、ボソボソだったと。

押しだして作る蕎麦は、もっそりとしており、ボソボソなものになります。ピンッと張りつめた冷涼ともいえるノドゴシの蕎麦を食べられるのは日本だけのようです。

はんたいに日本では普及しなかった麺としては米麺の存在があります。中国の南部から東南アジア、台湾と広範囲に普及した米麺です。

ごぞんじ日本も稲作はしています。日本は、米をそのまま食べることに特化したようです。

後述しますが、日本最古の麺レシピには米粉が使われています。

イタリアにも蕎麦を使ったパスタはあります。どちらかというとラザニアのように平べったい麺です。

そして、チーズなどをたっぷりとのせて食べます。

さて、ここで、東洋のジパングとすべての道がつうじるローマの話がつながりました。みなさまの頭によぎった人物の名前、それはマルコポーロではないでしょうか。

パスタを伝えたのは、マルコポーロだと言われています。それは違うときっぱりと書かれています。

マルコポーロが産まれるまえからパスタは存在しました。それこそ星の数ほどのパスタが存在しています。

古代ローマの時代にはパスタは食べられていたと書かれています。

では、なぜ、マルコポーロがパスタをイタリアに伝えたと言われるようになったのか。

それは麺の文化をヒモほどくことで仮説がたてられます。長安からローマまでつづく絹の道をたどると、中国の影響をうけなかった地域には麺を食べる文化がありません。

トルコやイラク、イランでは麺を食べていたという記録がないようです。そして、その地方を飛びこえた長靴の形のイタリアで麺文化は、おおいに花開いています。

麺のミッシングリンクともいえる地方があり、麺の文化が切れているのです。そこで、マルコポーロという存在で麺の文化をくっつけたのではと考えました。

このように歴史から文化まで考察できる本です。

あとひとつだけ面白いなと思った話がありました。インドには麺を食べる文化はありませんでした。ヒマラヤ山脈にて中国文化をこばみ、イギリスがくるまで独立独歩のインドは独自の食文化を築きあげていました。

ただ、インドの香辛料文化は、まわりの国にひろがりタイなどで麺とむすびつきます。

文化史として楽しめるだけでなく、『 麺の文化史 』は麺のレシピとしても活躍します。

たとえば、米粉麺の作り方もこの本で学びました。

『 麺の文化史 』を読まなければ米粉100%の麺を作れなかったでしょう。

日本ではじめて記載された麺の作り方や。

中国の文章にはじめて登場する麺のレシピなどを知れます。

日本と中国ふたつの国ではじめて記載されたレシピは、めん棒やまな板を使いません。

原始的な調理器具である手を使い作る麺です。古代の麺をお家でつくれば、古代人とおなじ麺をすすれるようになります。

蒼き狼の末裔たちが食べている麺料理も紹介されています。

土に近く無骨なイメージは、ユーラシア大陸を颯爽と駆け抜けた軍団を思い浮かべる雄大で素朴な味です。

いまの日本では、廃れてしまった黒胡椒で麺を食べていたという習慣も紹介されています。

白いうどんと黒胡椒の相性は滅法界よろしいです。ピリッとした小粒でもキクっ辛味は、うどんの甘味を深めてくれるように感じました。

江戸時代には、すでに黒胡椒があったようです。知りませんでした。

江戸時代の話をもうひとつ。年の暮れによく放送されていた『 忠臣蔵 』

『 忠臣蔵 』には、討ち入りをおこなうまえに蕎麦を食べるシーンがあります。私は思っていました、浪士たちは、醤油を使った今風のお汁で蕎麦を食べていたと。

ところが、『 忠臣蔵 』のころには、醤油はまだ存在しません。

味噌のうわずみを調理したもので蕎麦を食べていたようです。

このように麺の歴史から食べ方までもを『 麺の文化史 』を知れます。

世界をつるつると回られた著者です。もちろん世界に存在する麺料理も紹介しています。

そのひとつ、アフリカのパスタです。アフリカのひとたちもパスタを折ります。パスタを折るのは、日本人だけではありません。

アフリカに麺料理がひろまったのは最近の話です。

世界の話題で思いだしたことがひとつあります。「 ナポリタン 」と聞けば日本人が思いうかべる料理は、トマトケチャップをつかったパスタ料理でしょう。

もともとは、トマトソースをつかったフランス料理をナポリタンと読んでいたそうです。そうなんだ、とビックリさせられました。

このように誰かに話したくなる麺にかんする雑学までを学べます。

最後に麺は、いまも変化し続けています。かつては、たいはんの人が米麺を食べていた地方では、小麦の麺に取ってかわられるているそうです。

麺の環境が変化するだけでなく、麺の種類もふえ、また、科学の発達にともない加工された麺も美味しいものが増えてきました。

そして、交通の発達により国と国はちかくなりました。日本のラーメン屋が世界にひろがり、日本の即席麺が世界中で売られ、世界各国の麺や即席麺を日本で食べられます。

麺は、つるりと世界中にひろがっています。どのような麺を食べているのか、それを観察すれば、その国の文化がわかるかもしれません。

さいごに『 麺の文化史 』の最後の文章にて記事を終わらせてもいます。

麺は世界の食事文化を映す鏡なのである。

引用元:麺の文化史

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