食のエッセー、名文を味わう 日経新聞 何でもランキング ぜんぶ読んでみた感想 ランキングには新しい作家、知らなかった作家との出会いがあった

書評

日経新聞の企画『 何でもランキング 』 食のエッセー、名文を味わうランキング1~10位の本をぜんぶ読み、読んだ感想を書いています。独自のランキングも作りました。

新聞社が作るランキングはお金の匂いがプンプンし、信用できるのかと半信半疑でしたが、たしかに食のエッセー、名文を味わえるランキングでした。ただ、うん?と首をかしげる本もあります。

何でもランキングは、知らなかった新しい作家さんとの出会いの場でした。文章の隙間から匂いや香りがあふれてくる作家さん。愉快で軽快でくすりと笑えるエッセイを書く作家さん。料理を作る人のやさしい顔や丁寧な調理の過程、店の歴史を知ることができる作家さん。多数の作家さんと出会うことができました。

何でもランキング1~10位

  1. 海苔と卵と朝めし
  2. 旅行者の朝食
  3. 辺境メシ
  4. 味なメニュー
  5. たべるたのしみ
  6. 面食い
  7. あんこの本
  8. ごはんぐるり
  9. 魚の水(ニョクマム)はおいしい
  10. ウマし

日経新聞 何でもランキングベスト10です。

一冊一冊読んだ感想を書いていこうと思います。

海苔と卵と朝めし

エッセイの名手 山本夏彦に、エッセイの名手だと言われた向田邦子の食べ物にかんするエッセイと小説が集められています。

エッセイの名手といわれる向田邦子、どこがすごいのかと言われると、最初の一文にあると言われています。エッセイの最初の一文です。

「おまえはボールとウエハスで大きくなったんだよ」

味醂干しと書くと泣きたくなる。

引用元:海苔と卵と朝めし

ん?どういうこととなり、エッセイの続きが気になります。エッセイの続きは軽快、痛快、適切な言葉を使っているので、するすると読みやすいです。

読みやすい文章ですが、向田邦子の料理の研究結果を感じさせられる料理のレシピがたっぷり紹介されています。日常的な料理から、友人を笑顔にさせるレシピを知ることができます。かんたんに作れるレシピがおおいですが、このレシピがほんとおいしいの。

ゆで卵にカレーソースをかけた”だけ”のレシピ。わが家の定番となりました。

さらに向田邦子は、女性が一人でもくつろげるお店がほしいと考え、妹をまきこみ、女性がお一人でもくつろぐことができるお店を作りました。作家さんが料理店を運営するのも珍しいですが、女性のためのお店というのも女性ならではの視点だなと。

また向田邦子は料理人であり、旅人でもありました。沖縄からブラジル、ベルギーを旅行した紀行文も書いています。旅行が大好きだったようです。台湾、あの日、あの時、あの飛行機にのらなければ、あとどれだけの名エッセイがうまれたことか。

「こころと胃袋に染みわたる名作が満載」

「古き良き昭和が宝箱に入ったような一冊」

「正直な文章に一気に向田ファンになる」

引用元:日経新聞

作品を選んだ専門家さんたちの言葉は短いですが、向田邦子のエッセイの本質をビシッとついています。さすが専門家と思いしらされました。

旅行者の朝食

エッセイの構成がおもしろい作家さんだと感じました。

本のタイトルにもなっている『 旅行者の朝食 』のオチが秀逸でした。もう食べられない、製造してないと聴くと、人間はなにがなんでも食べたくなるものです。

だれもがおいしいと思う、『 アルプスの少女ハイジ 』の山羊のチーズ。それを溶かしパンにのせるシンプルな料理。見たことがある人はおおいのではないでしょうか?おいしそうに見えた山羊のチーズ、これの臭さやエグさをたっぷりとエッセイで書いています。おかげでハイジのチーズを見ても。

このエッセイでは、食事中に披露できる食のネタが豊富にあります。たのしい食事のために、ひとつふたつ食の話のネタを仕こんでおくのもよいでしょう。

「ドキッとさせられたり、しんみりさせられたりする」

「食文化について知見が深く引き込まれる」

引用元:日経新聞

辺境メシ

ヤバい。10冊のうち食べている食材が、一番ヤバい。ふつうの人であれば、まず食べない食材。それをパクパクと食べる作者さん、まじヤバい。写真も掲載されているが、見た目がヤバい。白黒でもよかった、カラーならまじヤバかった。

この本の冒頭はこんな感じではじまる。昔は好き嫌いがおおく偏食だった、しかし海外に一度行くと、どのような料理も食べられるようになったと書かれています。

いやいや、一回海外旅行に行ったぐらいで、なんでも食べられるようになるもの?亀仙人の修行も神様の修行もすっ飛ばし、いきなり界王拳をおぼえたぐらい強くなってますやん。

ありとあらゆる辺境に作者さんは旅行をし、ヤバい飯を食べています。ヤバい飯の半数はちょっと食べられないナと思いました、ヤバい、まじヤバい。

料理をしている様子がよく分かる文章、目の前にだされた料理に、面白く分かりやすいキャッチーなニックネームをつけるのがうまいなと感心しました。とくに口噛み酒を作っている様子は必読ですゾ。

ただ、ひとつだけ弱い部分があります。料理をしている様子、料理のニックネームと比べると、食べた感想が貧弱なんです。ヤバい材料を調理し、ドンっと面白いニックネームをつけ、盛り上がってきたところに、え?食べた感想、それだけ?となります。たとえば、世界最大の淡水魚ピラルクの兜焼きを食べた感想です。

この兜焼きが最高。香ばしい湯気を顔に浴びながら、くつくつ煮える肉に直接スプーンを突っ込む。新鮮な脂が舌の上でとろとろとろける。

 現在に至るまで、私が食べた中で最高峰の魚料理だと思う。

引用元:辺境メシ

味がわかるようで、いまいちピンとこない、そんなイメージでした。

産業化や工業化の影響で紹介されているレシピのなかには、絶滅寸前のものもあります。ヤバそうとひるんでいるうちに食べることができなくなるかもしれませんね。

「『ヤバそう』」と敬遠せず、ぜひ手にとって」

「強烈な読書体験になる」

引用元:日経新聞

味なメニュー

『 味なメニュー 』は、お店を紹介するエッセイです。お店を紹介するエッセイは苦手です。

どうせ、食べにいく機会もないし、興味もないし、大阪で東京のお店の話を流すようなもんやデ。

しかし『 味なメニュー 』はちがった、まず店に出向いて食べる、お店の外観、料理の味を、目、耳、口でわかるように書く。そこからさらにお店と味を深堀りをする。お店の歴史を書き、お店の料理人がどのような心意気で料理をしているか、お客さまに喜んでもらうために、どのような努力をしているかがよくわかります。

あとがきに、このエッセイの本質が書かれていました。引用させてもらいます。

好きなものを人に勧めるとき、ひとのことばは熱を帯びる。時にはそれは、温度が上がりすぎて、やけどをしてしまう。本書での平松洋子の言葉の温度は、ちょうどよい適温で、とても気持ちが良い。

引用元:味なメニュー

立ち飲み屋や立ち食い蕎麦やのエッセイもあったので、なぜか作者さんは男性だと思っていました。

あるとき、ないときで御馴染みの551の肉まんの皮が手作りだと、このエッセイで知る、関西人失格であります。

「平松さんのエッセーは夜中に読むべからず」

「よだれは垂れるわ腹は鳴るわ、引きつけられる料理が満載」

「著者と食卓を囲んでいるような臨場感がある」

引用元:日経新聞

たべるたのしみ

むかしながらの平屋の日本家屋の一室。6畳ほどの和室。その一角にこぢんまりした黒檀の机があり、その前に座るのは、涼し気な青い着物をきた女性、髪は後にこんもり丸くまとめられている。

手に持つのは細めの毛筆、その毛筆で原稿用紙にサラサラと文章を書いていく。

または、天井には光をほどよく乱反射させるシャンデリアがあり、ピシっとした姿勢、1mmも乱れていない服の給仕が、焼きたてのクロワッサンと淹れたてのカフェオレを配膳する。

カフェオレの香り、クロワッサンのパリっとした食感を楽しみなら、手には万年筆をもち、優雅にツラツラと文字を書いている女性が見える。

なんかもうめちゃめちゃお洒落なの。スキがないぐらいお洒落な文章なの。『 たべるたのしみ 』には向田邦子の名前も見えます。向田邦子も名エッセイ、名文だが、文章にスキがあった、どこか人間臭さを感じます。しかし『 たべるたのしみ 』にスキがなくひたすらお洒落でした。

パンについてのエッセイが多い印象です。

「過去が現在のように生きている」

「食への愛情にあふれる文章でおいしさを表現しており、読んだ後は本当におなかがすいてしょうがなくなる」

引用元:日経新聞

面食い

ネットがまだ発達していない時代は口コミもなく、レコードやCDのジャケットを見て、購入を決める、これを『 ジャケ買い 』と言っていました。

作者がネットの情報を見ずに、店の外観だけを見て、その店にはいることを『 面食い 』と名付けました。その飛び込んだお店の感想や飯を食べた感想、酒を飲んだ感想を書いているエッセイです。

この店の外観はいい。こういう店は期待がもてていい。この料理はいい。極端ですが、おおまかこんな感じで話はすすみます。

焼そばとビールはいい。うんうん、それはわかります。

『 孤独のグルメ 』『 食の軍師 』『 花のズボラ飯 』の作者や原作者のようです。イラストがあると生きてくる作家さんなのかなと思いました。

『 面食い 』のちょっと濃い表紙カバーを見るのに疲れました。ジャケ買い失敗。

ちょっと酷評しすぎのような気もしますので、この本は、Amazonのレビューものせておきます。

「美食を追及する人たちに勇気を与える」

「店の雰囲気などを楽しめる秀逸なグルメガイド」

「知らない街で無性に外食したくなる」

引用元:日経新聞

「カッコいいスキヤキ」以来、久住さんと和泉さんの本は大好きなのですが、これも、ぜったい手元に持っていたい本です。ジャケ食い=レコードのジャケ買いの外食版なんですね。それは、本のカバーをはがすとさらに納得ですが、ネタバレになるのでご自身で確認して下さい(笑)。

久住さんの書く文書って最高にあたたかくてクスッと笑えて大好きです。海のマリンの回が特に好きで、金のアルミ箔に包まれたサイコロ状のマグロの下りなど本当に最高でした。気に入りすぎて人にもプレゼントしてしまいました。孤独のグルメ好きの方は勿論、お酒が好きな方なら楽しめる内容だと思います!本当におすすめ!

そもそも表示を見て何この本?って流れから久住さんなら読んで見るかと購入。正に面食いならぬジャケ買い。呑みながら読んでると行ってみたいなぁ〜って思わせてくれる。しかし作者の久住さんは焼きそば頼み過ぎ。

引用元:Amazon

あんこの本

どのような本か説明する必要もありませんね、あんこの本です。

日本一、いや世界一、あんこを愛している作者。その作者が書く文章は、小豆をむす湯気のように、文章のあいだから、あんこ熱があふれています。

あんこを使ったおいしいお菓子をだすお店、あんこの歴史、森鴎外が愛した饅頭茶漬けのレシピ、アンパンマンのあんこは何餡か、あんこのすべてがわかります。

あんこを使ったお店を、あんこがみっちりつまったタイ焼きのように取材しています。使っている原料から、あんこの作り方までばっちりわかります。

カラー写真で掲載されている、あんこを作っている人の破顔一笑している顔がすばらしいんです。

あんこを食べにくるお客さまへの、日本の本物のお も て な しは、生き残っているのだナと確認しました。

水羊羹を食べたくなりました。

「あんこ好きにとってはバイブルとも呼ぶべき1冊」

「コロナが落ち着いたら、行きたいお店ばかり」

引用元:日経新聞

ごはんぐるり

目次をチラりと見ると、『 檀流クッキング 』という文字が見えました。大好きなエッセイを好きな作者を嫌いになるわけがなく、目次を見ただけで作者さんを好きになりました。

『 檀流クッキング 』のおもしろいところとして、「あげくのはて」という単語をあげています。この言葉をほかの料理エッセイでは、見たことがないと書かれていました。たしかに「あげくのはて」は『 檀流クッキング 』では、よく見かけますが、ほかの料理エッセイではちょっとお目にかかりませんね。目のつけどころが鋭く、おもしろい着眼点を持つ作家さんだなと思いました。

『 ごはんぐるり 』を読み、料理エッセイが好きな理由がわかりました。きれいに撮られた写真や動画があると、想像力はそこでストップします。しかし、文章だけで書かれた料理の味は、作家さんの想像力と文章力、表現力、語彙しだいで無限においしくなる。そのおいしく書かれている料理を読み、味や香りを想像するのが好きなんだなと気づかされました。

『 ごはんぐるり 』で作者さんが、おいしいそうと紹介されていた本を買ったりしました。一冊の本から、いろいろ枝葉がわかれ、読む本が増えるのは楽しいものです。えらい古い言葉遣いだなと思って読んでいると、父は鴎外?森鴎外の娘さんのエッセイでした。マリと読むようです。

エッセイを読みすすめると、作者さんは、テヘランでうまれ、幼少期はエジプトなど海外ですごされたようです。海外うまれとか、お洒落なかたなのかなと思っていたら、ちがいました。コテコテの関西のお嬢さんでした。

「たこ焼き好きなの?」と聴かれて、「大好き」と答えると恥ずかしいと書かれている箇所。わかるわぁ、なんか素直にたこ焼き大好きと答えられない関西人の性。

文庫本のおまけとして、対談がのっているのですよ。関西のお嬢さんのイメージだったので、右側が作者さんと勘違いしました。恐らく左側が作者さんです。ほかのエッセイを探そうと検索をかけたところ、直木賞を受賞している作家さんでした。

「食べるって楽しい!おいしい!という気持ちがダイレクトに伝わってくる」

「文章で食欲が刺激される、食エッセーの醍醐味を凝縮したような1冊」

引用元:日経新聞

魚の水(ニョクマム)はおいしい

料理の味、酒の風味、旅行をした風景の描写がいちばん綿密、精密、過密でこってり。五感で文章を味わうことができるエッセイです。

言い尽くせない、書くことができないほどおいしいなどと書くのはダメと常々にいっている開高健です。

その開高健が、料理、酒、お茶、花についてビッチリ書いている本。ニョクマムの濃く茶色く発酵した匂い、日本海でカニをむしゃぶりほとばしるお汁、Barで飲むマティーニの味、ジャスミンティーの華やかな香りを五感で感じることができました。

一語一語、一文一文、声をだして朗読してみると、詞を読んでいるような気になってきます。

開高健の名前は、ランキング1位~4位の本のなかに見ることができます。ピラルクを開高健が食べていれば、どのような味かきっと文章に書いたことでしょう。残念ながら開高健はピラルクを釣ることはできませんでした。

1位の向田邦子は、エッセイで開高健をこのように書いています。

味は━━私は文章を書きはじめてまだ日が経っていない未熟者なのが口惜しい。この味を正確に伝えるためには、丸谷才一、開高健先生の舌と筆をお借りしたいなあと思うだけである。

引用元:海苔と卵と朝めし

そういえば、食エッセイのランキングの著者、10人中、7人が女性で、のこり3人が男性です。開高健をのぞけば、男性の味の表現はいまいちのように感じました。女性のかたの味の表現は分かりやすく、想像しやすいです。

ウマし

日常の料理についてのエッセイです。「あるある、わかるわかる」が一番おおいエッセイでした。

たとえば、あんこは自分で作るな。あんこを作った人ならわかるのですが、「え、こんなに砂糖をいれるの?」と躊躇すると、おいしいあんこを作ることができないのです。

そのなかでも是非にも読んでもらいたいのが、市販のうなぎのかば焼きのおいしい焼き方です。この焼き方は本当においしく焼けます。年々高くなってきているうなぎ、なるべくおいしく長い間たのしみたいものですね。

作者さんの情報はスゴいですよ。結婚は二回、イギリス系の男性とカルフォルニア在住。エッセイを執筆中、旦那さんは死去。また父親の介護をするために、カルフォルニアと熊本をいったりきたり、弱音をはいたり、しんどい様子はチッとも文章から感じません。

心の芯が強い女性ですが、言葉のチョイスが面白く、軽やか、ハネるように楽しい文章です。うましでも、美味しでもいけないのです、タイトル通り”ウマし”がぴったり。

『 ゴールデンカムイ 』を読んでいる流行りにも敏感な作者さんです。また『 ゴールデンカムイ 』の料理を材料をかえ再現しようともしています。年をとっても挑戦する姿勢はとてもまぶしいです。

「食へのこだわりや執念に圧倒される」

「深夜にラーメンを食べているよう。罪悪感と満足感を得ると同時におなかもすく」

引用元:日経新聞

作者の伊藤 比呂美さんは詩人、小説家、随筆家です。食にかんするエッセイも『 ウマし 』が三冊目です。

言葉のチョイスが面白かったので、ほかの食のエッセイを買おうと思っていました。しかし、なぜかお経の本に惹きつけられ、購入していました。

般若心経やほかの念仏の入門書にピッタリ。

自己流ランキング

  1. ごはんぐるり
  2. ウマし
  3. 魚の水(ニョクマム)はおいしい
  4. 海苔と卵と朝めし
  5. 辺境メシ
  6. 味なメニュー
  7. あんこの本
  8. 旅行者の朝食
  9. たべるたのしみ
  10. 面食い

何でもランキングを読んだ感想【 まとめ 】

何でもランキングのおかげで、『 ごはんぐるり 』と『 ウマし 』の作者のお二方に巡り合うことができました。

個人的には、開高健の順位はうえでもいいのですが、開高健についていえば食のエッセイはたくさんあるので、今回は3位とあいなりました。

8位と9位の二作品の順位が低いのは、ちょっと上品すぎたのです、私には。逆にいうと上品な文章、文体が好きな人にはピッタリの食エッセイです。

食のエッセイを書いている作家は、”旅人”でした。旅行した風景、食べた料理、料理人の顔を感じたことを文章にかきとめる、それがおいしい文章を書くコツなのでしょう。

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