この記事は、斎藤美奈子さん著『文章読本さん江』を読んだ感想を書いています。
この本を読めば、文章読本を買わなくなる可能性がある文章読本です、文章読本とタイトルについているのに。この本が再販されておらず、文庫本化していないのは『文章読本さん江』がたくさんの人に読まれてしまっては、文章読本が売れなくなってしまうと出版業者が恐れているからではと考えさせられました。
じぶんの文章に自信がもてずに、あれや、これやと文章読本や文章教室のような本を買ったけど、いまいち文章がうまくなっていない、そんな経験をしたことありませんか?
文章読本内の矛盾
じつは、一冊の文章読本のなかで矛盾したことを言っている文章読本もあるのです。斎藤美奈子さんは、コツコツと怨念めいた執念で文章読本を読みとき、矛盾している文章、おかしいことを書いている文をコレクターのように集めます。
おそらくですが、100冊以上の文章読本系の本を読んだように思われます。明治から2001年までの参考文献を確認できました。そして読んだ文章読本を一部を引用し、軽快にスキップをするように、つま先でこつんと蹴るような文章で「ここ、おかしくない?」と教えてくれます。
そう、文章力があがらないのは、文章読本にも矛盾や間違いがあるせいで、あなたの文章力があがらないのかもしれません。
文章力の限界
文章読本には、数多くの文章がうまくなるトレーニングが書かれています、名文を読めやら、写経をしろやら。斎藤美奈子さんは、トレーニング方法にもつっこんだあげくの果てに、文章読本が濁してきたことを、ズバリ書いていました。運動に才能があるように、文章にもあるていどの才能差があり、極度に文章への才能がない人は、どれだけ文章の練習をしてもうまくならないと。そんな人が、文章を書く仕事についたら悲惨だが、文章なんか、文章を書くのが得意な人間に丸投げすればいいのだと書かれています。極論のような気もしますが、たしかに文章を書くのが苦手なのであれば、人に任せるのも手ですね。
また文章を書くことで生活したいのであれば、すぐに書く仕事に応募しろ。または小説を投稿しろ、と書かれています。たしかに、書く書く詐欺になっている小説家志望のひとおおいですもんね。
伝達の文章を学ぶのに文章読本は必要ない?
伝達の文書にスポットをあてます。伝達の文章、つまり伝えたいことを伝えられる文章を書くためには、文章読本を読むよりも、小論文の書き方、手紙の書き方を教えてくれる準文章読本を読めばよいと書かれています。たしかに、伝えたいことを伝えられる文章は、文章の書き方を教えてくれる本やレポートを書く本を読み、書き続けていれば、伝えたいことを伝えられる文章は書けるようになると思います。
『文章読本さん江』は、20年ほど前の本です。Webライターという職業が、いまほど大々的でなかった時代に書かれた本です。いまでは、文章の書き方解説本が綺羅星のごとく発売されています。石をなげれば、ダイエット本か投資本、文章の書き方解説本にあたる、そんな時代です。斎藤美奈子さんに今現在の文章の書き方解説本もブッたぎってもらいたいと思いました。
文章読本の定義とは?
ここまで読んで文章読本とは、なんぞや、という疑問がでてきませんか?文章読本なのか、文章の書き方の解説本、その境界があいまいですよね。
いまいち謎が残るものの、「エッセイ」「論文」「レポート」等の語を冠した本も、ここでは文章読本の仲間と考えることにしよう。
引用元:文章読本さん江
この本での、文章読本の定義です。いま発売されている文章系の本のほとんどは、文章読本という枠組みにまるっと放りこまれました。
さて、斎藤美奈子さんは、まず文章読本を分類わけします。文章読本を読んだ人であれば「あぁわかる」という納得できる分類わけです。これから文章読本系の本を読みだしたときに、斎藤美奈子さんが分類するところの◯◯型だなと、悪役のようにニヤリと一人ほくそ笑むことでしょう。
文章読本御三家をブッた斬る
分類わけをしたあとは、文章読本のなかでも有名で金字塔的な文章読本をターゲットにします。そのターゲットになった文章読本は、谷崎潤一郎と三島由紀夫の『文章読本』と清水幾太郎の『論文の書き方』この三冊を旧文章読本御三家とまとめ。新文章読本は、本多勝一の『日本語の作文技術』丸谷才一の『文章読本』井上ひさしの『 自家製 文章読本』の三冊。
文豪の書いた文章読本、文章を書くひとなら、オススメされたことが1度や2度はあるであろう、文章の書き方のHOWTO本。
まず三島由紀夫の『文章読本』これは、貴族趣味の若者が本棚を自慢したいだけと、バッサリと一刀両断に切りすてられ、その後あまり話にあがりません。ツッコミどころの宝庫とまで言われた谷崎潤一郎の『文章読本』には、いろいろとツッコミますが、谷崎潤一郎の『文章読本』はカブトガニのように、シーラカンスのように今現在も残っている過去の大遺物。谷崎潤一郎の『文章読本』と、他の文章読本を比較しながら話はすすみます。大文豪谷崎潤一郎の文章読本は、文章読本を語るうえで無視することができないコツンと孤高で異質な存在なのです。
もっとも厳しいツッコミにさらされたのは、本多勝一の『日本語の作文技術』でしょう。もうそれは、それは、「ここ、おかしくない」「言ってることと書いてること違うよね」と、こまかく執拗に16連打ぐらいのツッコミをいれます。
どのようなツッコミかというと、「紋切り型を使うな」と『日本語の作文技術』には書かれています。あちこちの文章読本で「紋切り型を使うな」と書かれているから、すでに「紋切り型を使うな」その言葉じたいが紋切り型だよ、と。たしかに、素人さんの文章の紋切り型を、メタクソにこき降ろす文章が『日本語の作文技術』にはあるんですよね。読んでいてあまり気持ちのよい文章ではないと思っていました。ツッコンでもらい、強炭酸飲料を飲んだようにスッキリしました。
本多勝一の『日本語の作文技術』は、実用的な文章の書き方を目指す本と書かれています。でもね、でもね、本多勝一の『日本語の作文技術』の巻末はね、ずらぁと文豪達の小説が並ぶの、どう考えても文豪達の小説の書き出しなんて実用的な文章じゃないよね、とツッコミをいれます。たしかに、たしかに、そうだなと。
本多勝一の『日本語の作文技術』は、まるっとダメな本ではありませんよ。役に立つ知識もあります。句読点の打ち方などたいへん参考になりますが、句読点の打ち方の例文を並べすぎて、年ごろの娘を持つ父親かよとつっこまれていましたが。
色気のある文章
「さっきから毒を吐いたり、ツッコミしかしてなくない、斎藤美奈子さん」と、思ったかたもいらっしゃるでしょう。そんな人の文章はゴテゴテ、ねちょねちょした嫌な文章じゃないの?と思うかたもいらっしゃると思います。
たしかに毒を吐き、ツッコミしかしてない文章です。しかし、その文章にはユーモアがあり、ピアニッシモがあり、上品であり、気品がある毒ある文章なんですよ。筒井康隆さんをして、斎藤美奈子さんの文章の色気はただごとでないと書かれています。そう、斎藤美奈子さんの書く文章は、色気があり、眼のつけどころが鋭く、ユーモアにあふれかえっているのです。文書を書くお仕事をしているだけあって、伝える文章だけでなく、サムシングがある文章を書いていらっしゃる斎藤美奈子さん。斎藤美奈子さんの半分いや、四分の一でも似せることができた文章を書くことができれば、ブログやnoteで人気がでるのではと思います。
文章読本の役目は終わった?
話を文章読本に戻しましょう。新御三家の井上ひさしの『 自家製 文章読本』のラストにて、実用的であり伝達文を書くのであれば、文章を書く方法を書いてある本を読めばいいのです、文章読本を読む必要はありません、と書かれています。
つづけて芸術的な文章を書くために文章読本を読むのであれば、読んだ読者ぜんいんが満足できる文章読本などありゃせん。各々が自家製の文章読本を作ればいいと書かれています。自家製とつけられたタイトルが回収された瞬間です。斎藤美奈子さんも井上ひさしの文章読本が発売されたときに、文章読本の役目は終わったのだ、と結論づけます。
しかし、文章読本はゾクゾクと発売され続けています、いまもずっと。ではなぜ、文章読本はいまだに、しつこく発売されつづけるのだろうか、という謎に斎藤美奈子さんはズズズイと迫ります。
いまだに発売される文章読本の謎
大きな流れとしては「思ったように書け、話すように書け」派と、「思ったように書くな、話すように書くな」派の対立を軸に話はすすみます。
文章読本のなかで、谷崎潤一郎だけが、思ったように書け派です。その他の文章読本は、思ったように書くのはダメ派になります。どこから、二つの対立が起こったのか、それを調べるために、学校教育に話が飛び、そこから明治の教育にまでズズズイと遡り、そこから二つの対立をひもときます。明治まで遡るのとは、ビックリさせられましたよ、おそろしい取材能力。
明治からさかのぼった結果、学校教育で「思ったように作文を書け」と言われ、純粋無垢にその言葉を信じ、書いた結果、点数は散々だった人たち。先生の御機嫌をうかがう猪口才な文章を書いた作文には賞があたえられる。思ったように書いた人たちは、こう想い悩むようになる「思ったように書いてはいけないのか」と。思ったように書いた結果さんざんだった人たちが、文章読本を買う、という結論に斎藤美奈子さんは辿りつきました。
わたしも思ったように作文を書いて先生にシコタマ怒られた人間です。文章を書いた、だけども、この文章で伝わるのかしらん、怒られないかしらんと不安になります。わたしはオールウェイズ、その不安があるのです。そんな不安を払拭するために、文章読本を買います。または、もっと面白く読みやすく人を笑わせるような文章を書くヒントはないかと期待をこめて文章読本を買い、そして裏切られるのです。
ほんまや、思ったように書いて失敗した人間が文章読本を買っとる。
結論
『文章読本さん江』のなかで、斎藤美奈子さんが思う、「思ったように書け、話すように書け」派と、「思ったように書くな、話すように書くな」派の対立の結論は書かれています。なるほどな、たしかに、そこを勉強すれば文章はよいものになりそうであり、斎藤美奈子さんのような色気ある文書に近づけるのではと思いました。
斎藤美奈子さんの結論は、本を読んでご確認ください、ではあまりにも投げっぱなしすぎるというものですね。ヒントは修辞学。英語でいうとレトリック。斎藤美奈子さんは、挿入法というレトリックを上手に使っている文章です(間違ってたら、ごめん、あそばせ)。
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