この記事は、開高健の小説やエッセイに登場した料理を再現し、食べた感想を書いている記事です。
味覚のするどさと、美味しいもの見つけだす嗅覚、味を表現する文章を書かせては文豪界随一の開高健。
多彩なレシピに酔いしれます。
テマヒマのかかる料理から、ズボラでおいしい料理までそろっています。
『 夏の闇ピザ 』
純文学の最高傑作のひとつにあげるひともいる『 夏の闇 』
その作中に登場するピザです。
酸、苦、甘、辛、鹹(かん)がいっせいに声をあげて口のなかで踊りだすようである。素朴なお好み焼きだけれども材料に発酵物がたっぷり入っているので襞(ひだ)の深さが成熟のうちに味わえるのである。
引用元:夏の闇
イーストをいれた粉を練りあげると書かれています。
開高健は、大皿にのせると書いていました。一人分で再現します。
100gの強力粉に、イースト3gをいれ、塩と砂糖をひとつまみ、オリーブオイルをひとたらし。
50gのぬるま湯をボウルにいれ粉を混ぜあわせます。
粉をまるくまとめておきます。
そして、生地を熟成、発酵させます。そのあいだに乾燥しないように濡れ布巾をかけておきました。
バサバサだった生地が、つるつるになれば熟成終了です。
生地をうちわ型にのばすと書かれています。うちわに見えるでしょうか。
トマトケチャップをぬります。トマトソースではありません。できれば、ねっとりと濃いトマトケチャップがこのましいです。
アンチョビをちらします。なければ、塩辛でもよいです。
サラミやベーコン、ハムなどなどお好みの肉をのせてください。
オリーブオイルをふちに飾ると書いています。けれども、ふちはパリッとさせたい派です。
そして、ケーパー。ピザの描写は二回書かれています。どちらにもケーパーをいれると書かれています。
ケーパーのほどよい酸味が、いい仕事をするんです。ピザの濃厚な味わいをさっぱりさせてくれます。
チーズをたっぷりとのせ焼きます。1種類でなく、複数のチーズをのせると味わいに深みがでます。
魚焼きグリルで焼きました。
トマトケチャップをつかったお手軽ピザとはいわせない深く厚い味わいです。
アンチョビとチーズの香りが、むんむんとピザのうえに漂っています。
ごちゃごちゃとした五目をいっきに口にいれると、チーズの熱と風味が口中にひろがり、肉と魚の熟成された芳醇な旨味が、トマトケチャップをぬった生地と混ざりあい、旨味の大爆発をひきおこします。
個性はバラバラ、旨味の方角もべつべつ、その暴れん坊ともいえる素材の旨味を、発酵したピザの生地が、まるッと優しくまとめあげているように感じました。
すこしだけ味わいが濃いようにかんじた瞬間に、ケーパーとオリーブのまろい酸味が口中を清めてくれます。
魚と肉、チーズ、そして、木の実をのせるだけで、真っ当に上等なピザをつくれました。
バターをいれた描写もありました。お好みでバターもくわえてください。
海鮮物のアンチョビと、なにかしらの動物的な肉、もしくは卵をのせると、そして、緑の粒の種をトッピングするとおいしピザになります。
アンチョビは、ちいさく、あちらこちらに散らすとよい感じです。
素朴なのに、豪勢なピザをお家でいかが。
最後の晩餐餃子
この餃子は、開高健がつくったものではありません。
餃子づくりの玄人はだしの人間がつくった餃子です。
みなが、みなが、口々に餃子をたいらげ、おかわりを所望したと書かれています。
どれだけ、再現できたかわかりません。
食べた印象としては、軽快で淡泊な餃子です。いろいろな調味料をいれているので味わいは濃いです。
しかし、しっかりとタネをねっているおかげなのか、タネの口あたりが柔らかく、小籠包のようにお汁があふれてきました。
そして、自作の皮は、むっちりとタネをつつみこんでおり、しっかりと小麦の甘さと風味をかんじさせてくれます。
開高健流にいうなら、お汁のなかでおぼれていない皮です。
品があり、味わいが奥深い餃子です。
ひとつひとつの工程をしっかりとこなせば、お家でもよいお味の餃子を作れるんだと思いました。
タネの具は、豚肉と白菜だけです。
白菜は、一晩ほど干しておくと水分がぬけ旨味がまします。
豚肉は、脂のおおい部位をえらぶように書いています。
その豚肉は、二度びきするそうです。がんばって二度びきしましょう。二度ひきすることで口あたりがよくなります。
つぎに、二度びきした豚肉と細かく切った白菜を混ぜ、包丁で形がなくなるまで叩きます。
包丁ではなく、ブレンダーをつかいました。
形のなくなったタネのなかに紹興酒と腐乳、ゴマ油、塩、ニンニクをいれ、ねりあわせます。
紹興酒は、老酒と書かれています。
腐乳とは、おそろしい名前をしていますが、豆腐を発酵させたものです。ほんのりと甘い香りがします。腐乳をいれると、XOジャンをいれた中華料理のように味わいがふくよかになります。
皮は、強力粉と薄力粉をはんはん、フィティーフィティー。
ぬるま湯でなく水と書かれています。強力粉:50g、薄力粉:50g、水:50gを混ぜあわせました。
こねあわせた生地はしばらく寝かせましょう。生地がしっとり、つやつやになります。
生地をまるくのばします。
お好みの形にタネを皮につつんでください。あとは、蒸すも焼くもゆでるもお好みで。
餃子のタネは、開高健が好きだったワンタンメンの具にもぴったりです。
日本のワンタンは、衣ばっかり、雲ばっかりと開高健はなげいていました。吞もしっかりといれましょう。
小説家のシューマイ
横浜の中華街すべてのシューマイを食べた開高健がたどりついた結論。
おいしいシューマイをつくる三種の神器として、干し貝柱と干しシイタケ、豚の背脂をあげています。
干し貝柱は調味料を、豚の背脂ハラードをつかいました。
ケチケチしていてはよい仕事はできませんゾ、という開高健の警句が聞こえてきそうです。
『 小説家のメニュー 』のなかで、開高健がみとめたシューマイを提供する店の名前が書かれています。
横浜の中華街すべてのシューマイを食べつくしたグルマン開高健をうならせた店とは、エッセイでご確認ください。
中年のシックなハンバーグ
パン粉をいれず、つなぎの粉もすくなく、肉とタマネギ、黄身、コショウだけでつくるシンプルなハンバーグです。
がっつりとした肉の手ごたえを感じられます。お肉のもつシンプルな汁気をたっぷりと堪能できます。
お肉がもつ旨みをダイレクトに味わうハンバーグです。お肉の質により、味わいはかわります。
『 開口閉口 』で書かれているレシピです。エッセイのなかでは、ひっくりかえすのに失敗し、ソボロ状になってしまったと書かれています。
ソボロ状のものをパンにはさみ食べたとも書かれていました。
開高健は、合いびき肉とタマネギ、そして黄身を形がなくなるほどまで混ぜたと書いています。
コショウをふりいました。
そして、頑丈なフライパンに油をひき焼く。フライパンのフタはしめると書いています。
失敗の原因のひとつとして、塩をくわえていないから肉がまとまらずにバラけた、もしくは、肉の冷凍状態がわるく、水分がなくやせほそったお肉だった、などが原因だったのでは思いました。
エッセイのなかで、開高健は、ベトナムで食べたハンバーグについて書いています。
ハンバーグを切ると、なかから赤い血があふれてくる、タマネギを片手にもち、ハンバーグとタマネギを交互にたべる、「ガッデム」とつぶやき、あたりをギョロギョロみわたす、と書いています。
読んでいて「うん」とおもったポイントがありました。
合いびき肉をレアで食べてよいのだろうか、また牛肉のミンチをレアの状態で食べてもよいのだろうか。
海外のハンバーグはレアでも大丈夫なのでしょうか。日本のハンバーグは、焼きすぎてイカンといわれていますが、ハンバーグの芯までは火をとおしたほうがよいのではと思いました。
もちろん、カスカスになるまで焼くのはご法度だと思います。
ソボロ状になってしまった、結果的においしいレアなハンバーグをつくれなかった、けれどもソボロ状になったおかげ、火がしっかりととおり開高健の健康はそこなわれなかったのかもしれません。
合いびき肉を焼いたフライパンは、お汁がたっぷり。赤ワインをいれ煮つめソースにするのもよいでしょう。
わたしは、ニンニクを油で炒めます。
そして、パスタをゆで油と混ぜあわせます。
お肉の旨味をすったパスタとニンニクの風味をあますことなく堪能でき、しっかりとお腹もふくれあがることでしょう。
おいしいハンバーグの作り方を書いた本も、パン粉も小麦粉もいれません。
開高健の考えていた方向性は、あっていたのです。ソボロ状にさえならなければ、イケてるハンバーグが作れたはずです。
『 新しい天体鶏肉うどん 』
鶏肉のシンプルな風味を堪能できる柔和なおつゆです。
材料は、鶏のひき肉と水、日本酒、醤油だけ。
鶏のひき肉の旨味をシンプルにいかしたアウトドアレシピです。
鶏のひき肉をたっぷりいれれば、いれるほどに味わいは濃く厚くなります。
醤油のかわりに麺つゆをいれるのもよいでしょう。
鶏のひき肉だけで、こんなにも淡泊で淡麗、潤味のある澄んだおつゆが作れるのかとビックリしました。
ちょいと瀟洒な日本料亭のおつゆのように清潔で雅なおつゆです。
お好みでネギや七味などをいれると、さらに味わいはゆたかになるでしょう。
食べた描写と調理工程は書かれていません。『 新しい天体 』を読み作り方を想像したものです。
鍋にお湯をわかしましょう。そして、日本酒もくわえアルコールをとばします。
鶏のひき肉を鍋にいれます。
鶏のあくが気になるひとは、すくいあげてください。
醤油で味をととのえます。そして、うどんをくわえお好みのかたさになるまで煮てください。
ひとつの鍋で完結する料理です。さらに、添加物など余計なものは一切はいっておらず、健康的なうどんです。
このうどんを食べると、ホワイトがわいてきます。
エラクなりたかったらスキヤキ
スキヤキは、割下をいれるのか、肉かネギどちらから先に焼くか、そんな議論はすッとばし、とりあえず、腹につめこむスキヤキです。
牛肉とネギ、豆腐、しらたき、うどん、白米があれば、5食ほどのレシピに迷わなくなります。
時間を有効に利用できるのです。
スキヤキには南部鉄の鍋がよいと書かれていますが、お好みのフライパンをおつかいください、開高健も南部鉄のフライパンをつかっていません。
ヘットを焼き、透明な脂で鍋をコーティングします。このヘットの香りがあれば、スキヤキは半分できたも同然です。
ネギをくわえ、牛肉を焼きます。
そして、醤油と砂糖をちょびり。
そして、日本酒やワイン、ビールもちょぼりとたらしいれます。あとは素材を放りいれ適宜煮こむだけです。
食べのこしたおしるは、そのまま残しておき翌日のスキヤキにつかいます。
開高健が生きていた時代とくらべ気温の高くなってきたいまです。常温だと痛む可能性があります。そこは気をつけくてください。
男ひとりだと、いくらか素材がのこっていると思います。あまった素材を放りこむ、スキヤキの二回戦です。
ゴボウなどをくわえ味や香りに変化をつけるのもよいでしょう。
さらに、調味量をそろえ、あれやこれや、ふりかけたり、配合したり、実験したりし、お好みの味を探求するように書かれています。薬剤師のように、錬金術師のように、新しい天体の想像にはげんでください。
さらに、煮こんでいるあいだに、ちょこちょことした料理をこしらえる術をおぼえると人生がゆたかになります。
つぎの日は、タマネギをくわえ炒めます。麺つゆなどをいれ煮こみます。
煮た具材を白いご飯のうえに、ぶッかければ牛丼です。お値段は500円以下。
よくじつは、うどん玉をほうりこみ煮こみます。
しっかりとしたカツオ節の出汁をとれば、肉うどん感がまします。たっぷりのカツオ節をおしげもなく放りこんでください。
牛肉とカツオ節の香り。鍋焼き肉うどんをたのしめます。
最後に、いろいろなエッセンスが溶けこんだおつゆに、ご飯を放りこみおじやにします。
卵をぽちゃりと落としてもよいと書かれています。
二千円ほどで5食分の料理をつくれました。洗い物がすくなく、料理が苦手なひとでも作れる開高健の叡智がひかるレシピです。
エラクなりたければ、スキヤキですぞ。
開高健の小説やエッセイ、釣り紀行は別の記事に書いています。
開高健の料理にひきつけられたかたは、よろしければお読みください。
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