今夜、すベてのバーで 【 読書感想文 】アル中の、アル中による、アル中のための鎮魂歌

書評

『 今夜、すベてのバーで 』を読んだ読書感想文をアル中が書いています。

アル中の、アル中による、アル中のための鎮魂歌的私小説。

この小説の大きなテーマは二つ、酒と死。切っても切れないビールと唐揚げのような二つの関係について、嫌でも考えさせられる。

この小説を読んでいると、アル中あるあるな話から、フロイトなど心理学、哲学的な話にもひろがり、アル中の酔った頭や胸にもチクリと刺さる文章が、Barの壁に飾られている酒の種類ほど読むことができ、染み込んでくる。

酒の飲みすぎで、検査入院するハメになる主人公。検査の様子、カエルの肛門にストローをつっこんで膨らましたような腹の様子、禁断症状の様子などがくわしく書かれている。肝硬変一歩手前、ギリギリ壁に三本の指でぶらさがっている状態。検査の様子を読み「こんな苦しい検査をしたない、これはアカンで、酒を飲むのを控えなアカン」と思ったアル中のあなた。あなたは立派であり、まわりに大事な人がおられるのだろう。アル中から更生の余地あり。すこしでもBダッシュぐらいの速度でアル中から抜け出したいと考えているあなた、すぐにこの本を読むべきだ。

つぎの反応は、手遅れ気味のアル中の反応である、むしろ引き返せないところまで逝ってしまったアル中の反応。この小説を読んでナニを思うのか。この本の主人公より、おれマシやん、まだまだ酒を飲めるな。おれは夕方からしか飲んでいないし、1日中飲んでないし、ウイスキー1日1本あけないし、せいぜい3日に1本だし、主人公は35歳、おれはもっと年をとっているから大丈夫、頭皮からフケがでるなどなど、なにかと主人公と自分を比べ、主人公よりマシなところを虫眼鏡をつかい探しだし、自分が酒を飲む根拠にするのである。

「こいつよりマシだ。だからボクは飲んでええんや」

自分よりヒドイ状態の人間を見て、自分はまだマシなんだと落ち着く、あの心境だ。アル中であり、肝臓よりも人間性が腐っているアル中の反応である。ワテは、そんなアル中。

酒を辞めたいアル中、自分よりひどいアル中を見たい、どちらのアル中にも対応している小説となっている。まさに、アル中による、アル中のための小説。

さいきんインポになった。勃つことは、勃つが、柔らかく、持続力がなく、中頃から折れる。性欲もなくなった。毎晩オカズを選ぶ必要もなくなり時間の節約になり、オカズを買わずにお金の節約になる、おれは解脱できたのだと思っていた。小説には、こう書かれていた。「酒の飲み過ぎで、インポになっていた」え?マジで?と、ひどい人間性のアル中ですらも、恐怖というものを覚えさせられた。男は「ハマラメ」から老化すると言われている。歯は大丈夫だ、目はずっと眼鏡だ、マラはついに来てしまったのかと。

マラの恐怖を感じ、酒を控えるのかというと、そんなことは一切ない。毎晩、毎晩、突然、瞬間的に眼のまえの電気が消えるようにブラックアウトするまで痛飲している。フランスでは、情事が終わったあとの状態を小さな死という、アル中が毎晩ブラックアウトするのは、1日の死ともいえる。1日の死を積み上げ、確実に死へのカウントダウンを早め、死への階段を2段飛ばしで昇っている。

死への恐怖はないのか、と言われるとあまり無い。溺死や焼死、拷問、スポンジの水分が足りないなどはノーセンキューだ。苦しまずに死ぬことができればそれでよい、それだけだ。肝臓の状態が内角高めギリギリボールのアル中患者が、小説には登場する。そのアル中患者は霊安室においてあるアルコールを、医者や看護師に隠れてコソコソと、死を恐れずに欲望に従って飲む。あさましい姿だなと思いつつ、おまえも同じもんヤと気付かされる。

死から逃れるために、禁酒を決意する主人公。小説を読み、ここで残酷な事実に気付いてしまう。アル中は、じぶんのためにアルコールを辞められない。生きながら全力に慢性的に死ぬとわかっていながらも、酒をたらふく飲むのだ。昨日は飲みすぎたナとひどい二日酔時には、今日の夜は飲む量を減らそうと考えていながら、夜になればなったで脳と視神経が削り切れるまでアルコールを摂取するのだ。体に悪い、肝臓に悪い、そんなことは分かっている。飲むのを辞められない。ナニかから逃げたい、ナニかに変身したい、ストレスや苦悩、疲労すべてをうっちゃりたいがために飲む。他人のことを考えていない、まっすぐな思考の、一本すじの通った筋金いりのアル中を禁酒させるのはむずかしい。

主人公は身近にいるたいせつな女性のために禁酒を決意した、禁酒を持続している人は、家族や子ども、恋人、たいせつな人のために禁酒をしているのではと思う。家族や子ども、恋人、たいせつな人がまわりにいない孤独なボッチのアル中は、禁酒できないのではとゾッとし恐怖から逃れるために、糸が切れた人形が崩れるように酒を飲む。

「たいせつな家族や子ども、恋人がいても禁酒できない人もいるじゃん」たいせつな人がいても禁酒できないアル中は、たいせつな人だったと失ってから、その存在に気付き、ひとりで、孤独に、部屋のスミで後悔しながら、懺悔しながら、ふわふわと楽しかった時を想い、うろんとした眼は過去を見つめつつ、杯を重ねるのである。ワテのように。

アル中の、アル中による、アル中のための鎮魂歌的私小説。『 今夜、すベてのバーで 』

破滅的に刹那的、ゲンジツトウヒのために毎日酒を飲むアル中、たいせつな人が周りにおり禁酒を考えているアル中、酒を飲むことを決めるのは、アナタだ、酒を飲む理由を他人のせいにしてはいけませんゾ。

今夜、すべてのバーで、あなたはナニをする?

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